今月のレビュー作品

Sin City: That Yellow Bastard/阿部静

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タイトル:Sin City: That Yellow Bastard
推薦者:阿部静
  

 フランク・ミラーの作品が安心して読める理由のひとつとして、ヒーローがどいつもこいつも単細胞猪突猛進近視眼的バカであるということが挙げられる。打算で動かず、俺様正義を貫き、硬派のわりに女にはひどく優しく、傷つけたり支配したりしない。その性格が一番よく出てるのは、ジジイのバットマンが老骨にムチ打ってゴッサムを駆け回るDark Knight Returnsでも、紅い衣の忍者女がサイを振り回すElektraでもなく、このSin Cityシリーズだろう。アメリカ中西部の架空の町ベイシン・シティを共通の舞台に持つ各話の主人公たちは、その優しさゆえか例外なく女で身を滅ぼしていく。

 さて、そのSin Cityは最初の一作だけ邦訳が出たが、続刊は出ず、唯一世に出た本も現在は絶版中とあまたの邦訳アメコミと同じ運命をたどった。まあ、ターミネーターみたいな主人公が人肉食いのシリアルキラーと血まみれの死闘を繰り広げるという、シリーズ中最高にグロい話なので惜しくはないけど、続けて邦訳が出ていたならきっと気づいたであろう興味深い仕掛けが日本での陽の目をみなかったのは、ちょっとだけ残念ではある。

 というのも、第一作の『Sin City』の主人公マーヴ、第二作『A Dame to Kill for』の主人公ドワイト、そして今回紹介する第四作『That Yellow Bastard』の主人公ハーティガンの運命は、ある時刻、ある場所で一瞬だけ交差するからだ。場所はベイシン・シティのカントリーバー「キャディーズ・クラブ・ペコス」、時刻はスターダンサーであるナンシーのステージ。愛する女の仇を捜すマーヴも、愛した女に裏切られたドワイトも、同じ時刻、同じ場所で彼女のステージを見ている。トップレスのカウガールスタイルで投げ縄を片手に踊るナンシーは、退廃したシン・シティに於いてはさながら唯一光り輝く女神だ。しかし女神はマーヴとドワイトのような下界の者の運命にはさして関与はせず、物語に彩りを与えるに過ぎない。ハーティガンという例外を除いて。

 老刑事ジョン・ハーティガンは、あと一時間で定年を迎えられるというところで少女誘拐事件を強引に解決させる。後援を待たずに突入、犯人に致命傷を負わせて少女を救出したのだ。しかし犯人が町の有力者ロアークの息子だったため事態は急転直下、事件のもみ消しを狙った父親によって彼は幼女暴行の濡れ衣を着せられ投獄されてしまう。少女の身を守るためにハーティガンは罪に甘んじる。世間からも妻からも見捨てられた彼を信じたのは、わずか11歳のその少女だけだった。少女はコーデリア(シェイクスピアの『リア王』に登場する、傲慢な父を信じ愛しきった心優しい三女の名)という偽名を用いて老刑事に手紙を送り続ける。牢獄の中で8年の歳月が過ぎたある日、再び少女の身に危険が迫りつつあることを知ったハーティガンは、死刑執行のスキをつき脱獄、少女と再会する。彼女、ナンシー・キャラハンはもはや11歳の怯えたちっぽけな少女ではなく、19歳の美しく輝く女神(ディーバ)へと成長していた…。

 バイオレンス・アクションのイメージが強いSin Cityだが、個人的には、バカと呼びたくなるほどの愚直な男と、その人生を狂わせるファム・ファタルな女とのラブ・ストーリーだと思っている。雪が深々と降る中、一発の銃弾でナンシーを永遠に守り抜いたハーティガン。その純粋な愛の深さを堪能するには、やっぱりこんな寒い冬の夜がいい。
 

【作品データ】

作者:Frank Miller
出版社:Dark Horse Comics
出版年:1997年7月

 

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2001年以前レビュー




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