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タイトル:The Adventures of Barry Ween, Boy
Genius
推薦者:阿部静
「天才少年バリー・ウィーンの冒険」というタイトルからある程度どんな話かは予想がつく。やたらIQの高い子供が珍妙な発明で平和な日常に大騒動を巻き起こす…それってカートゥーン・ネットワークのデクスターズ・ラボじゃん。子供にドギツい会話をさせて毒のある笑いをとる…それってサウスパークじゃん。そもそも「クソ生意気なお子様が良識ある一般大衆を振り回してやりこめる話」ってあんまり好きじゃないんですよ私。せめてBoondocksやCalvin
and Hobbsみたいにビジュアル的に可愛いければまだ許せるんですけど、なんだこの苦虫噛み潰したようなツラに剣山ヘアのガキは。こんな可愛いくない主人公は絶対ダメ、認めん。なんでこんなのがアイズナー賞にノミネートされてるんだ。
その疑問を解く鍵がすでに第一話にあった。10歳にしてIQ350の超天才児バリーの実験がお約束どおり暴走して、部屋に異次元への穴が開いてしまう。一方的に事態解決を手伝わせようとするバリーに、ジェレミーが憤然と抗議する。
「ほらまた始まった。ボクに命令してる」
「してないよ」
「してる。いつもじゃないか。『こっちへ来い、あっちへ行け、この爆弾を作るの手伝え、腎臓をひとつ提供してくれ』。もうウンザリだ。友達だと思ってたのに」
「今はこんなことしてる暇はないんだぞジェレミー。僕はおまえの親友だよ。そりゃちょっとエラそうな口をきくことはあるけど、でもそれは友達として、科学者として、この星で最も優秀な知能を持つ炭素系生物として、おまえのことを考えて言ってるんだ」
腎臓のくだりは目をつぶるとして、結局この口論はジェレミーの父親に来週宝くじを当てさせるという条件でバリーが折れる。「自分以外の人間は全部サル」と思ってる最も優秀な炭素系生物さまが、である。バリーとジェレミーに超人とサイドキックというお決まりの図式を勝手に当てはめて読んでいた身としては、この数コマの会話に微妙な力関係の揺らぎを感じたのだ。
それが気のせいでないことは続く第二話でも明らかである。勝手に実験薬を飲んだために恐竜になってしまったジェレミーに、解毒薬を用意していないバリーは密かにジェレミーの頭部に照準を合わせて銃を構えるのだが、どうしても引き金を引くことができない。銃の中身が麻酔弾なのか実弾なのかは定かではないが、とにかくバリーはジェレミーを撃てないのだ。そして第六話ではバリーと間違われてジェレミーが政府組織に誘拐されてしまう。もちろんバリーはジェレミーを救出し組織に対して苛烈な報復を徹底的に行うが、全てが終わったその後で、バリーはジェレミーにポツリと呟く。「君がケガでもしたら、もう僕はどうしていいかわからない」
そこに、あのいつもの高圧的で毒舌家な天才少年の影は微塵もない。
母親の胎内にいた頃から知能が発達しているバリーは、21歳になる頃には発狂するであろう自身の絶望的な未来を冷静に予測している。だからこそ行く必要のない小学校に通い、普通の社会との接点を失わないようにしている。周囲の人間を見下しながらも、誰にも理解されないバリーの孤独は深い。そんな彼にとって、エロ本とゲームと低俗TV番組をこよなく愛する普通の少年でありながら、何のためらいもなくこの天才を「親友」として対等に付き合おうとするジェレミーは、バリーにとっては彼を一般社会に引きとどめておいてくれる錨であり、かけがえのない支えなのだ。そう、これは「スゴい天才の話」ではなく、「天才と、そんなヤツの親友やってるスゴい普通の少年」の物語なのである。
続刊のMonkey Talesではバリーにとってもう一人の大事な人間である、憧れの少女サラ(この子がただの「かわい子ちゃん」タイプでないのもポイント高し)も巻き込んで初の長編となっている。現在物議を醸しているGreen
Lantern #154でJudd Winickの名前を知った人も、Pedro And Meで無償の友情に涙した人も、そして「ただ笑えるだけじゃなくて心に残る話」を読みたい人も、この表情豊かな悪ガキどもが大活躍する作品はきっと気に入ってもらえると思う。
【作品データ】
Writer and Artist: Judd Winick
出版社:Oni Press
出版年:1998年
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