今月のレビュー作品

Scott Mcloud's ZOT!/阿部 静

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タイトル:Scott Mcloud's ZOT!
推薦者:阿部 静



 スコット・マクラウドといえば、今や『Understanding Comics (邦題:マンガ学)』や『Reinventing Comics』などのコミック研究書を書いた人になるのだろうが、私にとっては彼のほぼ唯一の代表作である『ZOT!』を描いた人、である。この作品のおかげでインディ系コミックを読むようになったのだから恩人と言ってもいい。あれからいろんな作品を読んできたけれど、これだけ爽やかで、泣けて、何度も読み返したくなるシリーズは未だお目にかかれていない。ただし、今回紹介するのは、各方面で賞を取り評論家の評価も高いシリーズ後半ではなく、レギュラー陣が初登場する最初の話。 ジェニーは13歳の普通の少女。見知らぬ土地に越してきた不安と寂しさで落ち込んでいたある夜、彼女は異世界からやってきた少年ヒーロー・ゾットと知り合う。その鮮やかな射撃と爽やかな笑顔に魅せられたジェニーは、兄バッチとともにゾットの世界に入り込む。エアカーが飛び交うバラ色の未来世界に感激する暇もなく、一行は惑星シリウスIVの盗まれた秘宝「世界の果ての扉の鍵」を巡る国際的陰謀に巻き込まれてしまう。ゾットの親友で鍵を盗んだ張本人のヴィクター、それを追うシリウスIVの軟弱王子ドルフュスらを交え、鍵の争奪戦はますます混迷を極めていく。次第にジェニーは、ゾットの完璧な笑顔の下に「棄てられた子供」という隠された素顔の傷に気づく。そして、その原因となった彼の両親の失踪は、実はシリウスIVの陰謀と大きく関わっていたのだった…。

 この物語には三人のヒーローが登場する。一人はもちろんゾットだが、彼のスーパーな装備品(空を飛ぶジェットブーツや愛用の銃テンシューター)を開発したのは発明家の叔父マックスなので、本人自身は「勇敢でちょっと射撃の上手い13歳の男の子」でしかない。むしろ偶然立ち聞きしたシリウスIVの陰謀を正義感から阻止しようとし、たった一人で鍵を盗み出し、自作のミニロボットと変装術で巧みに追っ手をかく乱するヴィクターのほうがスパイ顔負けの活躍ぶりである。この二人に比べれば、周囲の期待に応えられず、鍵の争奪戦でも常に遅れを取る気弱なドルフュス王子は、ヒーローどころか凡人以下かもしれない。しかし最後には彼はその誠実さを武器に、ヴィクターに自発的に返却させることに成功し、王族としての責務を立派に果たしたのである。

 この三人に共通するのは「常識や慣習よりも自分が正しいと思ったことを信じる」という潔さだろう。能力的には普通の少年たちが、その純粋な正義の心で行動するからこそ、ヒーローの条件とは能力ではなく信念にあるのだと改めて再認識させてくれる。クライマックスでシリウスIVの国民に救世主として迎えられたゾットは、子供の自分が国民を導けるはずがないと言いつつも、「ヒーローである自分」を否定したりはしなかったのである。同時期のコミックに大流行した「超常の能力に振り回されていらん責任まで抱え込み苦悩するヒーロー」とはえらい違いである。 ついヒーロー論になってしまったが、もちろんこの物語はゾットとジェニーのボーイミーツガール物としても楽しめるし(実際これ以降はそんな話ばかりではある)、最後は大団円で幕を下ろす極上のエンターテイメントでもある。何せ主役のゾットが基本的に単細胞なので、傷つき、悩むのが長く続かない。ヒーローは彼の天分なのだろう。この前向きで夢を忘れないあたりが、全年齢向け(for all ages)のオールタイムベストに選ばれるゆえんなのだろう。こんな傑作が単行本1、2巻まで出たところで出版社のKitchen Sink Pressが潰れてしまい、最終巻が未だ出ていないのが返す返すも悔しいところではある。 

【作品データ】

Writer and Artist:Scott McCloud
Publisher:Kitchen Sink Press (オリジナルはEclipse Comics)
出版年:1997年(オリジナルは1984年)

 

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