今月のレビュー作品

SPIDER-MAN: THE DEATH OF GWEN STACY/光岡三ツ子

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SPIDER-MAN: THE DEATH OF GWEN STACY
推薦者:光岡三ツ子


 映画秘宝(洋泉社)Vol.30で「映画『スパイダーマン』にはコミック版への鎮魂歌がこめられている」というタイトルで「グエン・ステーシーの死」を紹介する機会をいただいた。これはもし普段アメコミを読まない人であっても、映画を楽しんで見たような人であればぜひ知っておいてほしいエピソードであり、できれば読んでほしいコミックである。誌面に書いたように今回の映画はこのエピソードを原作としており、ところどころのディテールはともかく、原作とほぼ同じ流れを忠実に踏んでいる。違うのは、原作の中ではエピソードの中心人物となっているところのヒロイン、グエン・ステーシーがいず、グエンを取り巻く環境もすっぽり抜け落ちている。しかし映画は見る人に何の違和感も感じさせない。たとえ原作を知っていようと、そうなのである。映画で使われなかった道具、ウェブ・シューターのように、スパイダーマン物語のエッセンスを表すとき、グエン・ステーシーはとくに必要なかったということなのだろうか。そういうはかない存在感への寂しさもこめて、タイトルには「鎮魂歌」という表現を使ったのである。
 誌面では文字数の都合もあってあまり詳しく紹介できなかったが、映画が公開されるこの機会に、このエピソードをもっと掘り下げておきたく、ここでスペースを借りることにした。「グエン・ステーシーの死」については2年前、高木亮さんがレビューを書かれているので、そちらも参照いただきたい。ここではストーリーについてもかなり詳しく触れる箇所があるので、ネタバレなくコミックを読みたい方は高木さんのレビューのみ読んでいただくといいかと思う。
 さて前置きが長くなったが、まずグエン・ステーシーの紹介から始めよう。彼女はピーター・パーカーが大学時代に知り合ったガールフレンドである。きれいな金髪、青い目、スレンダーな体。高校ではミスに選ばれ、モデルの経歴もあり、でも大学ではピーターと同じ化学のクラス、という夢のようなマンガ的美少女である。というか、そこはやはりマンガなので、メリー・ジェーン(以下MJ)という違うタイプの美女も現れ、ピーターを取り合うというシチュエーションが繰り広げられる。美少女キャラ2人が主人公を巡って火花を散らすというラブコメな状況は連載初期からよく使われていた、要するに読者受けのよい味つけだったのだろうが、このエピソードではこんな何でもない状況が何重にも絡まる悲劇の発端となっていく。
 MJとグエンの恋のさや当ての結果、ピーターが選んだのはグエンだった。一見おとなしいが強い情熱を秘めた性格の、うぶな2人はお似合いのカップルだった。
 そしてMJはピーターの友人であるハリー・オズボーンとつきあいだす。だが時は女性解放運動の真っただ中。その風潮を地でいっていたMJは、おぼっちゃん育ちのハリーに物足りないものを感じている。ハリーも女王然にふるまうMJには時々我慢ならなくなっている。享楽的で青春時代を楽しむ姿勢は2人に共通していたが、それ以外の共通点はなきに等しかった。
 MJは気まぐれにか、腹立ちまぎれにか、ハリーのいる前でわざとピーターにベタベタしだす。だがピーターは山ほど心配事を抱え込み、美女がくっついてきても目をやるどころではない。まずグエンの父が事故で亡くなったことをきっかけに、2人の仲がうまくいかなくなり、彼女は遠くロンドンへと旅立ってしまっていた。そしてグリーン・ゴブリンがいつ目覚めるかもしれないという危機感。ゴブリンの正体であり、ハリーの父であるノーマン・オズボーンは今は正気に返って普通の生活を送っていたが、いつ邪悪なペルソナが顔を出さないとも限らない。それに、世を騒がせている麻薬問題もスパイダーマンの心を憂鬱にさせる。こんな状況で、自分を材料に友人を翻弄しようとするMJのお遊びはピーターにとって迷惑の種でしかなかった。
 だが父に似て精神的にもろいハリーはこのMJの行動に真剣に悩み、ついには幻覚剤に逃避しだす。薬の常用から妄想に襲われ、中毒症状で倒れてしまうハリー。そこに登場するのがなんと目覚めて攻撃をしかけてきたグリーン・ゴブリン!ノーマンを正気に戻すため、ピーターは苦しむハリーを無理矢理見せつけるという荒治療を行わなくてはならなかった。こういう最悪の状況の時にも、ピーターは気がつけばグエンのことを想っている。どうしても彼女のことを忘れられないのだ。だがそれはグエンも同じだった。2人は離れられないと知ったグエンは一路ピーターの元に駆けつけ、2人はかたく抱き合う……
 だがこの幸せな瞬間が、突然の死で破られる。正気に戻ったはずのノーマンだったが、今度は息子が薬物中毒になったのはピーター=スパイダーマンのせいであるという執念にとらわれ、再びグリーン・ゴブリンに支配されてしまう。復讐心からゴブリンはかつてない非道な手に打って出た。ピーターを個人的に苦しめてやろうと、再会したばかりの恋人、グエンを誘拐したのだ。必死に彼女を救おうとするスパイダーマンだったが、その甲斐なく、彼女はあっけなく死んでしまった。  ここまで読んでおわかりのように、「グエン・ステーシーの死」は何重もの要因が寄り集まり、よじれた結果の悲劇である。純粋な悪人というのはこの中にはいない。ノーマンもある意味ゴブリンの被害者なのだ。ピーターがはじめて失ったのはベン伯父さんだが、この時の加害者は強盗殺人犯だった。だがグエンの死への怒りをぶつける相手はいない。グリーン・ゴブリンも事故で勝手に死んでしまう。ピーターの哀しみと無力感はつきることがない。勧善懲悪などもう「スパイダーマン」の世界には存在しないのだ。ちょうど現実の世界にそんなものがないように。
 それどころか、この事件を発端にさらなる悲劇が待ち受ける。ハリーはノーマンの死を逆恨みしてスパイダーマンを倒すべくグリーン・ゴブリンを襲名するが、自ら命を落とす。その後ノーマンはある事件がきっかけで生き返るが、今度はハリーの死を逆恨みしてまたスパイダーマンを狙いはじめるという堂々巡り。
 悲劇はまだまだ続く。グエンに片思いしていた老教授が突然スパイダーマンに逆恨みをはじめ、彼のクローンを作り出して対決させる。このクローンが生き延びて、自分が本物(オリジナル)で、ピーター・パーカーがクローンだという主張のもと、突如ピーターの前に現れる。動揺するピーター(そして読者……)だが、同じ細胞から生まれた2人はやがて家族以上の絆を認めあうようになる。だが、結局クローンが死に、細胞が崩れることでピーターがやはり本物だった、と判明する……というムチャな筋書きが待ち受けている。これがコミックファンの間に悪名高い「クローン・サーガ」である。
 ところで教授はスパイダーマンのクローンのみならず、こっそりとグエンのクローンも作っていた。グエンのクローンはスパイダーマンを翻弄するため送り込まれるが、本人の再現であるため当然ピーターの味方なのである。ピーターはグエンの生まれ変わりを見て息が止まりそうなほどショックを受けるが、それはその時だけで、さしたる感情の乱れもその後にはない。コミックでは事件の後グエンのクローンがどうしているのかも描写されない(生存しているはずだが……)。
 グエンはその死によってコミック史に刻まれた。だが、結局は消えゆく運命だったことがここからも見て取れると言えるだろう。
 かえって「グエン・ステーシーの死」で存在感を大きくしたのはMJだった。エピソードの一番最後で、MJはうちひしがれたピーターと慰めあおうとする。だが、そもそもMJは意図しなかったとはいえ事件の発端に関わった本人でもあるのだ。ピーターは苛立ちを隠せず、MJに酷い言葉を投げつける。「哀しいだって?笑わせるなよ……君は母親が死んだって泣かないような女だ」その言葉にショックを受け、出ていってくれ、というピーターの言葉に従おうとするMJ。だが彼女は結局出ては行かず、ピーターの側にいることを選ぶのである。
 後にこの2人は結婚し、苦渋の人生の中で取り合った手を放すことなく共に歩んでいく。この終章は、以後の2人の人生の序章ともいえるものとなっているのである。
 

【作品データ】

Written by Gerry Conway
Illustrated by Gil Kane
MARVEL COMICS

収録:
THE DEATH OF GWEN STACY
SPIDER-MAN VS. GREEN GOBLIN
THE 100 GREATEST MARVELS ALL THE TIME ,
マーベルコミッ クス「スパイダーマン」第7巻(光文社、現在絶版)

 

過去のレビュー作品

'02.04.26
Amazing Fantasy #16〜18

'02.04.12
ELFQUEST

'02.03.22
Just Imagine

'02.03.8
THE POWER OF IRON MAN

'02.02.28
Batman: No Man's Land

'02.02.08
Breakfast After Noon

'02.01.16
Hellboy: Conqueror Worm,BLOODSTONE

2002年のレビュー
2001年以前レビュー


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