今月のレビュー作品

Amazing Fantasy #16〜18/高木 亮

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タイトル:Amazing Fantasy #16〜18
推薦者:高木 亮



 春の花咲く4月を迎え、進学や就職などで、新生活を始められた方も多いだろう。今までの生活と何も変わらないという方も、「初心忘れるべからず」ということわざを思い出して、心機一転がんばってみるのもいいだろう。何にせよ「はじめての時」というものは、心に残るものである。緊張、不安、期待、とまどい…それらのものがないまぜになって、我々のウブな心を揺り動かしてくる。けれど、時が流れ、「はじめての時」の感動を忘れてしまうと、人生は「退屈な日常」というワンパターンの繰り返しになってしまう。逆に言えば、「はじめての時」の感動をいつまでも持ち続けていられる人は、幸福なのかもしれない。今回紹介するのは、そんな「はじめての時」を迎えて、とまどい悩み苦しむ一人の少年ピーター・パーカー…そう、我らの親愛なる隣人スパイダーマンの物語である。

 物語は、ベンおじさんが殺された数日後から始まる。一家の主を失い、茫然自失しているパーカー家に一人の男がやって来る。男の話によると、ベンは生前に家族へのプレゼントとして高級家具を注文していたのだが、今回の悲劇がおきたために、家具の納品が一時中断になってしまったという。キャンセルすることも可能だったが、ピーターとメイおばさんは故人の遺志を無駄にしないために、ただでさえ少ない収入をやりくりして、家具を購入することに決める。しかし、後日、ピーターがスパイダーマンとして街をスイングしていた時、同じ男が同じような話をしている場面に偶然出くわした。不審に思ったピーターが男の後をつけると、男は仲間の待っているアジトへと戻っていった。実は彼らは巨大な詐欺組織であり、誰かが死亡すると、残された家族のもとに押しかけ、「亡くなった方は生前、高級な品物を家族に内緒で購入しようとしていた」という作り話をでっちあげて、金をだまし取ろうとしていたのだ。人の不幸につけいる冷酷無情なやり方に怒りを燃やしたスパイダーマンは、彼らを一網打尽にして警察に引き渡す。
 その後、スパイダーマンはジョーイという名のミュータントパワーを持った少女と出会う。お互い孤独な立場にいた若い二人はすぐに仲良くなるが、それも束の間のことだった。自分のパワーに有頂天になるあまり、目的もなく破壊行為を繰り返すだけのジョーイにとって、スパイダーマンの生真面目な責任感と使命感は、根本的に相容れないものだったのだ。やがて、ジョーイはキングピンの用心棒として悪事に手を染めるようになり、それを知ったスパイダーマンは、なんとかジョーイを説得しようとするものの、結局は果たせず、ジョーイはスパイダーマンを憎みながら警察に捕まってしまうことになる。
 その後、てっとりばやく収入を手に入れようとしたスパイダーマンは、再びショービジネスの世界に舞い戻ることにする。時を同じくして、スーパーチャージャーという名の超人が登場し、スパイダーマンと同じ番組に出演することになる。しかし、番組の収録がはじまった直後、スーパーチャージャーは悪人としての正体を現す。彼は外部に通じる扉を溶接すると、観客を人質にとってスタジオ内に立てこもる。スパイダーマンはスタジオを脱出して警察を呼びに行こうとするが、そんな暇はないと見てとるや、すぐにスタジオに引き返して、スーパーチャージャーと対決する決意を固めるのだった…。

 本書は、1962年に発売されたスパイダーマンのデビュー作である『Amazing Fantasy #15』と、その翌年に独立誌となった『Amazing Spider-Man #1』の間の空白を埋めるという形で、30余年の時を経て、特別発売されたミニシリーズである。脚本は『マーヴルズ』『Astro City』などでお馴染みのカート・ビュシーク。同じく彼が手がけた『Untold Tales of Spider-Man』(過去のレビュー参照)と同じように、悩めるピーター少年の内面を細やかな筆致で丁寧に掘り下げている。
 とりわけ印象深いのは#17のラスト……ジョーイが警察に連行された後、一人思い悩むスパイダーマンが独白するシーンである。彼は何度も自分に言い聞かせる。「ぼくは正しいことをしたんだ…」と。一時期は友人であったジョーイを犯罪者として警察に引き渡さざるをえなかったスパイダーマンの心境は、いかなるものであっただろうか。身近な例で言えば、友人が万引きしているのを知ったあなたは、友人に何と言うだろうか? 自首しろと言うだろうか、友情を壊さぬように、黙って見過ごすだろうか? 何が正しいのか、自分はどう生きるべきなのか…。我々の誰もが、日々の生活のなかで、こうした思いにとらわれ悩むことがあるだろう。それが多感な青春時代ならば、なおさらである。我々が日々の悩みに答えを見出せないように、スパイダーマンもまた単純明快な答えを手に入れることはできない。
 親愛なる隣人スパイダーマンが多くの人に愛され、これほどまでに人気を保っている理由。それは「スパイディがぼくらと同じスタンスに立っている身近な存在だから」だと言う。しかし、人気の秘密はそれだけではないと思う。我々がスパイダーマンに共感をおぼえるのは、「ぼくらもまた(超能力のあるなしにかかわらず)ヒーローになれることを示してくれたから」ではないかと思う。超能力を持っているから、ヒーローになるんじゃない。自分に与えられた責任を果たすこと、誇りをもってそれを成し遂げること、たとえ失敗してもあきらめずに努力し続けること。それがヒーローである、ということを教えてくれたからなのだ。昨年9月11日のテロ事件の後で、スパイダーマンというヒーロー像をあらためて読み解くと、そこには一般の消防士や警察官と同じ精神が流れているように感じられる。すなわち、ヒーローとは力じゃない、精神なんだということをあらためて教えてくれるのである。
 昨今の新聞をひもとくと、そのほとんどが暗いニュースばかりである。親としての責任から逃れ児童虐待に走る若い父親…本来の使命を忘れて自己保身のことしか考えない政治家…自分の管理不足をリストラという形でしか償えない経営者…失敗をおそれてひきこもる青年…。けれど、ヒーロー不在の現代社会にあっても、人は誰でもヒーローになれるのである。そう、ヒーローになれるかどうかは、あなたの心がけ次第なのである。あなたはスパイダーマンのように、ヒーローとしての精神を持ち続けていられるだろうか?
 

【作品データ】

Published by Marvel Comics
Written by Kurt Busiek
Painted Art by Paul Lee
発売:1995年
関連サイト:http://www.samruby.com/
      http://www.spidermancrawlspace.com/
      http://www.spiderfan.org/index.html

 

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