今月のレビュー作品

THE POWER OF IRON MAN/阿部 静

レビューコーナーでは皆さんのお便りをお待ちしています!

 

〜「鉄の男」の挫折と再生〜

タイトル:THE POWER OF IRON MAN
推薦者:阿部 静

 表の顔は美女と浮名を流す億万長者。裏の顔はハイテクを駆使して日夜悪と戦う正義のヒーロー。DC ComicsのバットマンとMarvel Comicsのアイアンマンにはそのプロフィールに共通点も多いが、バットマンにあってアイアンマンにはない決定的な点がひとつある。それは、正義を執行するに至る強烈な原体験、トラウマがないということだ。

 スターク・エンタープライズ社の社長アンソニー(トニー)・スタークは、米軍の軍備顧問としてベトナムを視察中にゲリラの攻撃に遭遇、心臓に致命傷を負いながら捕らわれてしまう。ゲリラはスタークの素性を知ると、彼の命を救うことを条件に最高の兵器を製造することを要求する。要求を断っても死、呑んでも(たぶん)死というこの絶体絶命の状況で、スタークは無敵のパワードアーマーを作り上げ、それを自分が着ることで自らの命をも守るという、やり手の実業家らしい一石二鳥で乗り切った。こうして誕生したのが「世界初・空も飛べてビームも撃てちゃう最硬最重のペースメーカー」アイアンマンの原型である。

 かように成り行きでヒーローデビューしたアイアンマンだったが、その後はジャイアントマンらと共にアヴェンジャーズを結成したり、表のスターク社長として資金面・設備面でのバックアップをしたりと、正義のヒーローとしての階段を着実に昇っていった...その事件が起こるまでは。

 仕事のストレスから日頃の酒量が増えていたトニーは、密かにアイアンマンのアーマーに手を加えられていたことにも気付かなかった。その犯人は闇の商人ジャスティン・ハマー。ライバルであるスターク社のコーポレートシンボル、アイアンマンを破滅させることでスターク社の崩壊を狙ったのだが、これが見事に大当たり。公衆の面前でハマーに操られるまま、アイアンマンは殺人事件を起こしてしまう。

 アントマンや親友ローディの協力で黒幕を突き止め、操られていたという立証はかなったものの、時すでに遅く世間のアイアンマンに対するイメージはガタ落ち。彼の姿を見ただけで子供は逃げ、警察には邪魔者として追い払われる。今まで大した挫折も経験せずに華やかなスター街道を歩んできたアイアンマン=トニーにとって、これは耐えがたい屈辱だった。その苦痛から逃れるためにトニーはボトルに潜む悪魔(Demon in a Bottle)の誘惑に負け、ついにはアルコール中毒に身を堕としていく。

 もしも、ブルース・ウェインのように幼児期に両親を目の前で賊に射殺されるというようなトラウマ体験がトニーにあったなら、この事件も少しは違った結果になったのかもしれない。なぜ正義が必要なのか、ヒーローの真の敵は本当は何なのか、それを痛感しないまま続けてきたアイアンマン稼業は、結局はええとこのボンボンの道楽に過ぎなかったのかもしれない。どんな無敵の殻をかぶっていても、中身は脆い人間であり、その弱さゆえに過ちは起こる。正義とは悪人をバッタバッタとなぎ倒すことではない、くじけそうになる自分の中の弱さに打ち克つことなのだ。

 1968年に前身のTales of Suspenseから単独タイトルとなってから34年、今年でめでたく400号を迎えるMarvel ComicsのIron Manの歴史の中で「ベスト」を一冊だけ選べと言われたら、おそらく十人中七人くらいはこのDavid MichelinieとBob LaytonによるIron Man #128「Demon in a Bottle」(1980)を選ぶだろう。この号でトニーはアルコール中毒から立ち直り、真のヒーローとして再出発する。黄金のアヴェンジャーがカッコ良く活躍する話ではなく、この地味な人間再生の話が今なおファンの間で高い評価を得ているのには、それまでパーフェクトな人間に見えたトニーの中に、自分たちと同じ「弱さ」をやっと見出せたからなのかもしれない。
 

【作品データ】

Writer: David Michelinie & Bob Layton
Artist: John Romita Jr.
出版社: Marvel Comics (ISBN:0-87135-599-X)
収録作品:IRON MAN #120-128 (1984)

 

過去のレビュー作品

'02.02.28
Batman: No Man's Land

'02.02.08
Breakfast After Noon

'02.01.16
Hellboy: Conqueror Worm,BLOODSTONE

2002年のレビュー
2001年以前レビュー



レビューのコーナーでは皆さんのお便りを募集しています。皆さんが「面白い!」と思った海外コミックを何でも紹介して下さい。知られているもの、知られていないもの、これを見ている皆さんに読んで欲しいもの、そうじゃなくても何だかちょっと「コレ面 白かったよ」と呟きたいようなものも。アメリカのコミックだけでなく、フランスの"BD"やイタリア、香港、中国、その他とにかく「海外」のコミックの紹介、大歓迎します!

レビューを送っていただく際、できるだけ表紙の画像を一緒にいただけると助かります(もちろん、なくても全くOK!ですが、見つかりにくい本の場合、画像が入れられなくなってしまい寂しいことに・・・) 。添付の場合はJPEGかGIF。80K以下の小さな画像でお願いします。
とにかく、このコーナーは皆さんの投稿で作られるコーナーです。どんどん投稿をお寄せ下さい。お待ちしてます!!

当ホームページへの投稿の宛先はこちら:contact@planetcomics.jp


PLANETCOMICS.jp
[WorldComicNews] [ComicReview][Contact US!]