今月のレビュー作品

Jimmy Corrigan, The Smartest Kid on Earth      推薦者:阿部 静

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タイトル:Jimmy Corrigan, The Smartest Kid on Earth
推薦者:阿部 静

 昨年の暮れ、たまたまAmazon.comのジャンル別ベストセラーを眺めていたら、一般書籍に混じってかなり上位に食い込んでいたのがこの本。珍しい、オルタナティブ・コミックがこんなに売れてるんだ、小説はムリでもコミック程度の英語ならなんとか読めるだろう、くらいの軽い気持ちで買ったのがそもそもの間違い。届いた本のカバーがペーパークラフトになっていて「へー面白い」パラパラとめくって「わぁ綺麗。わたせせいぞうとか、たむらしげるみたいな透明感のあるイラストを楽しむ画集なのね」
と思ったのが第二の間違い。そして、この本がアイスナー賞やハーベイ賞の受賞ノミネートリストに近年その名を連ねているFantagraphicsのAcme Novelty Libraryだと読み終えるまで気づかなかったのが致命的な間違い。ええ、確かに面白くて、美しくて、素晴らしい本でしたよ。でもその前に、酷い話だよこれ。

 36才という年齢よりはずっとフケた印象を受けるジミー・コリガンは、会社との往復と母親への電話だけが日課というシケた人生を送っています。ある日突然、幼い頃に離婚で生き別れた父親から手紙が届いたことから、ジミーは母親に内緒で「まぶたの父」に会いに行きます。この、現代を舞台にした親子の再会を軸に、ジミーの祖父でもう一人のジミー・コリガンの子供時代が絡んできます。19世紀末、シカゴ万博を控えた街に、祖母を看取るため父親と引っ越してきた少年ジミーは、慣れない土地で寂しい毎日を送っていました。街が美しく華やいでいくのとは対照的に、少年ジミーの人生からはさまざまなものが剥ぎ取られていきます。祖母、友達、優しい黒人メイド、家、そして…。

 デザインには素人の私でも、見開きのコマ配置がシンメトリー(左右対称)だったり、書き文字の書体がそれぞれ異なっていたり、色使いがしっくり馴染んでいるというのは容易に見て取れます。この計算されつくしたレイアウト、洗練されたタイポグラフィー、統一感のあるカラーコーディネートだけでもデザインのお手本になりますが、何と言っても建築物の描写の美しいこと!その繊細なラインに思わず見とれてしまいます。「あえて既存のコミック作家のスタイルを模倣しなかった」と作者のクリス・ウェアーが言うだけあって、アメコミでもマンガでもない、強いて言うならコミックストリップの最終進化形ともいうべき独特のスタイルを打ち出しています。

 でも絵がきれいなだけならイラストや絵画と同じ。この作品の凄いところは、隠喩や伏線を絵の中に潜ませることで、「読む」のではなく「見る」ことによって物語を語る手法。よく「絵はいいけど話がダメ」とか「良いストーリーにアートが合っていない」などと、まるで絵と話が乖離しているかのような評を耳にしますが、この作品に限ってはそれはない。というか、本来コミックとはそういうものでしょう。そのいい例がクライマックスで明かされる「家族の再会」の真実。時代を隔てて語られた二つの物語が一つに結びつく瞬間なのですが、正直言って、これを見た瞬間に「ああ、やられた!こういう表現方法があったなんて!」と叫ばずにはいられませんでした。

 美麗なイラストと奇抜な表現手法に目を奪われがちですが、最初に述べたようにこれは酷い話です。結局のところ、二人のジミーはどちらも人生の負け犬に他ならず、そんな彼らを受け入れてくれる最後の場所であるはずの家族にすら裏切られてしまう。冒頭の「スーパー・マンの飛び降り自殺」が暗示しているように、まったく救いのない話です。読み終えたとき、生きるということの虚しさ、耐えがたい孤独感に襲われない人はいないでしょう。

 ところで、Fantagraphicsから出ていたAcme Novelty Libraryは、作者のデザインのこだわりからか毎号そのサイズが大きく異なり、CDジャケットサイズからB4ノートサイズまでてんでバラバラでしたが、ハードカバー版は大きさが統一され、たいへん読みやすくなっています。表紙カバーも遊び心に満ちており、中身もシルクスクリーンの絵画のよう。これでたったの$27.5というお値打ち価格も魅力の一つでしょう。しかし最後に繰り返しますが、絵柄に騙されると不意打ちをくらってザックリと心臓に突き刺さります。これは最高に美しく、そして最高に残酷な物語です。

【作品データ】
Writer/ Artist:Chris Ware
Publisher: Fantagraphics Books
関連URL:
http://www.presspop.com/chrisware/chris_top.html
http://www.fantagraphics.com/artist/acme/acme.html


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